産後うつとは?特徴や症状を知って出産後のこころを守ろう【保健師監修】
さんごうつ
公開日 2025.03.17
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イラスト・ずんこさん
ずんこさん
出産後、極端に気分が落ち込んだり、家事や育児をする気力がなくなったりしていませんか?もしかしたら、それらの症状は産後うつかもしれません。女性のライフスタイルのなかでも、特に産後はストレスがかかりやすい時期。産後うつが悪化すると、自分だけでなく夫婦の関係や今後の子育てにも影響を及ぼしかねません。この記事では、産後うつの主な症状や考えられる原因、対処法などについてわかりやすく解説します。【保健師監修】【マンガ解説】

マンガ「産後うつ」

娘の美桜を出産して3か月が経ち「夜泣きが心配で寝ていられないや」とクッションに座り赤ちゃんを抱いている女性の漫画イラストパパは出張多いし実家は遠いから頼れないし、私ががんばらなきゃとため息をついているママの漫画イラスト散らかった暗い部屋の中で、「そういえば、まだご飯食べてないな、その前に皿洗いしないと、部屋も片付けないと…」というイラスト「でも身体が動かないや、今日は和也が出張から帰ってくる日なのに…」と座り込んで涙を浮かべているママの漫画イラスト暗い部屋のドアを開けて「ただいまーえ?部屋が真っ暗」とつぶやくパパの漫画イラスト部屋の電気をつけると、泣きながら赤ちゃんを抱いて座り込んでいるママに気が付き「ああ、早希いたの?!」と驚くパパの漫画イラスト「ど、どうした?何で泣いているの?」と聞くパパ、「なんでもない、ごめん今からごはんの準備するね…」と答えるママの漫画イラストきれい好きで料理が趣味だった早希と、暗い表情で料理を何を作るか思いつかない早希の漫画イラストその後も早希はどんどん元気がなくなってきて…「最近疲れてない?」と聞くパパ、「なんで?」と答えるママの漫画イラストここは少し強引でも病院で診てもらおう!と決意し、「美桜は実家に預けて明日病院行こうよ!」と誘うパパの漫画イラスト「病院なんておおげさだな」と思っているママ、「そうですか。こういう状態が2週間以上続いているんですね。」ときく医師の漫画イラスト「産後うつの症状ですね」と話す医師、びっくりし聞いている夫婦の漫画イラスト産後うつとは①眠れない②食欲がない③常に憂鬱で吐き気がする④疲れる生きる気力がない⑤なぜか涙がでる⑥身体が重く家事や仕事が片付かない⑦決断力がなく買い物に行っても決められない「早めに受診してくれて良かったです。産後うつを放置するとどんどん悪化することもあるので」と説明する医師。妻を気遣いながら話を聞いている夫婦の漫画イラスト「私はただの育児疲れかなと思っていました」と話す女性、「産後うつは治療が必要な病気です」と話す医師の漫画イラストマタニティ―ブルーの症状の説明産後うつの要因の説明、①周囲のサポートを受けにくい②身体的ストレス③精神的ストレス④本人や近親者にうつ病の既往症があるなどの説明イラスト「産後うつは適切に対処すれば、数か月から1年ほどで治ります。ご家族の理解やサポートがとても大事です」と男性に話す医師の漫画イラスト「家事や育児を全部まかせっきりでごめん早希」と反省するパパの漫画イラスト「できるだけ奥様の休息の時間を増やしてください。産後ケアやファミリーサポートなどの支援制度を利用するのもいいですよ」とアドバイスする医師の漫画イラスト「役所に支援窓口があるので相談してみるといいでしょう」という医師、産後ケアのご案内を差し出す看護師の漫画イラスト「僕もできるだけ早く帰って協力するから色々調べてみよう」というパパ、「ありがとう」と用紙を見るママの漫画イラスト「私ママなのにちゃんとできなくてごめんなさい」と泣くママ、「そんな…」となぐさめるパパの漫画イラスト「産後うつは『怠け』ではありません。十分がんばりました。お子さんやご家族のためにも今は休むことが大切ですよ」とアドバイスする医師の漫画イラストその後育児サポートを利用して、夫の出張中宿泊施設を利用したり、子育てヘルパーさんに来てもらうなどの漫画イラスト少しずつやる気が戻ってきたママ、赤ちゃんをおんぶして食器を洗いながら「終わった
ら休憩しようっと」とつぶやく漫画イラスト

産後うつとは?

産後うつとは、出産から数週間〜数か月程度にわたって続く、主に母親の心理的変調がみられる疾患です。家事や育児をする気力がなくなったり、極端に悲しみを感じる症状がみられます。 産後うつは、出産後のママに1~2割程度の確率で発症するといわれています。極度の悲しみや無気力を感じ、それがほぼ毎日、2週間以上続きます。特に出産を終えて日常生活に戻る産後1か月頃は、環境の変化によって産後うつを発症しやすいタイミングのため、注意が必要です。

産後うつのサイン

産後うつは、専門医によるサポートが必要なこころの病気です。放置しておくと、症状が長引いて子育てや夫婦の絆にも影響を及ぼしかねません。 まずは産後うつの症状を確認しましょう。

産後うつの主な症状

以下の症状がほぼ毎日、2週間以上続くときは産後うつを疑い、病院へ受診することをおすすめします。

  1. 眠れない、途中で起きてしまう
  2. 食欲がない、吐き気がする
  3. 常に憂鬱で、気分が晴れない
  4. 疲れる、生きる気力がない
  5. なぜか涙が出る
  6. 身体が重く、家事や仕事が片付かない
  7. 決断力がなく買い物に行っても決められない

男性も産後うつになる?

産後の女性のみが対象と思われがちな産後うつですが、実は男性も発症する可能性があるといわれています。国立成育医療研究センターが実施した調査では、1歳未満の子どもがいる家族のうち、メンタルヘルスに不調をきたすリスクがあった父親は全体の11%で、母親とほぼ同じ割合でした。父親の産後うつも母親同様に子どもへの影響も懸念されているため、注意が必要です。

産後うつはいつまで続く?期間は?

産後うつによる気分や体調の変化は、一般的には分娩から数週間後〜数か月かけて症状が持続します。放置すると、症状が数年間以上にわたって続いたり、悪化したりするリスクがあります。

産後うつとマタニティブルー(マタニティブルーズ)との違いは?

マタニティブルーとは

「マタニティ」という言葉から、妊娠中の症状と勘違いされがちですが、マタニティブルーは、妊娠中や出産後の女性の30~50%が経験する、自律神経やメンタルが不安定な心理状態のことをいいます。

産後うつとマタニティブルーの違い

産後うつとマタニティブルーはどちらも産後に生じる抑うつ症状ですが、産後うつは治療が必要な病気であるのに対し、マタニティブルーは自然に治っていく正常範囲内の変化という点が異なります。
マタニティブルーの場合、産後数日から2週間程度のうちに、ふいに涙が出て止まらなくなったり、いらいらしたり、落ち込んだりする等の精神症状が出現しますが、こうした感情は数日〜数週間以内に治まります。また、マタニティブルーは約3〜5割の母親が経験する感情といわれており、基本的に治療の必要はありません。 産後うつの場合、マタニティブルーよりも深刻な気分の変動があり、症状が数週間から数か月間続くため、日常生活に支障が出ます。マタニティブルーズの症状が重かったり、妊娠前、妊娠中に心の病気を経験している方は、産後うつになりやすい傾向があるといわれています。

産後うつがもたらす影響

育児への影響

親が産後うつになると、子どもとの絆をうまく築けないことがあります。そのため、ネグレクト(育児放棄)や虐待につながってしまったり、後年、子どもに情緒的・社会的・認知的な問題が生じることがあります。

夫婦関係・家族関係への影響

産後うつによる精神の不安定は、ときに夫婦・家族間の関わり合いが産前に比べてうまくいかなくなることもあります。

産後うつの原因

産後うつを発症する原因は、人によって異なり、はっきりとは解明されていません。さまざまなことが引き金となって発症に至る場合が多く、自身の身の回りの環境に何か原因がないか整理してみることで、その後の治療にもつながります。

ホルモンバランスの変化

妊娠〜出産にかけて、ママの体ではホルモンバランスの急激な変化が起き、ストレスを感じやすくなっています。そのような状態にもかかわらず、産後は疲労や育児への不安など、ストレスの種が多い時期。ホルモンバランスが急激に変化すると、ストレスに耐える脳の働きが低下し、物事をネガティブにとらえる傾向になりがちで、それが産後うつにつながりやすいといわれています。

苦しい気持ちを引き起こすきっかけ

ホルモンバランスが乱れている状態で、次の要素を抱えているときは、産後うつの発症に至りやすいとされています。

①周囲のサポートを受けにくい環境にいる

家族が遠方にいる・核家族である・パートナーが多忙であるなど、周囲のサポートを受けにくい状況は孤独感を引き起こし、産後うつ発症の原因になり得ます。 また、家庭の経済的な負担もストレスの原因になります。

実家が通いというイラスト

②身体的ストレス

出産直後は赤ちゃんの不規則な生活リズムに合わせて授乳などのお世話をするため、睡眠不足に陥りやすく、疲労もたまりやすい状況にあります。こういった身体的ストレスが産後うつの原因となる可能性もあります。

寝不足や疲労のたまったママのイラスト

③精神的ストレス

産後うつになりやすい性格傾向として、「生真面目」「責任感が強い」「努力家」などが挙げられます。家事・育児を完璧にこなしたい、母親としてこうありたいという気持ちが強すぎると、自分へのプレッシャーやストレスとなって負担がかかってしまうことがあります。

育児も家事も完璧に!の目が回るママのイラスト

④本人または近親者が、うつ病の既往歴がある

本人や近親者にうつ病の既往歴がある場合は、産後うつの発症率が高くなるとされています。

心療内科のイラスト

このほかにも、本人がストレスに感じてしまう思い出や記憶などが発症の引き金になる場合もあります。

産後うつの治療法・対処法

産後うつかも…と思ったら、まずは受診を

産後うつは、専門医によるサポートが必要なこころの病気です。産後うつが疑われる場合は、早めにかかりつけ医や出産した産婦人科、心療内科・精神科病院等へ相談しましょう。

医師と産後ケアのご案内をもった看護師のイラスト

病院を受診することに抵抗があるときは

心療内科や精神科病院は、他の医療機関と違い、受診のハードルが高いと感じる方も多いかもしれません。そんなときは、まずは身近にいるパートナーやご家族・または保健師さんや助産師さんに相談してみましょう。
もしあなたが病院を受診しなければならなくなったときも、決してひとりではありません。相談に乗ってくれた方や病院の先生たちが、あなたの味方になってくれます。

授乳中などで薬の服用に抵抗があるときは

授乳中なのに、受診して薬を服用することになったら…と、抵抗を感じる方もいるかもしれません。しかし、近年は安全な治療法が確立されてきており、薬物治療以外にも、認知行動療法等の治療法の選択肢もあります。専門家と相談しながら自分に合った方法で治療を行うことができます。

産後うつは治る?

産後うつは、適切に対処すれば数か月〜1年ほどでよくなることがほとんどとされています。本人のストレスの原因となっているものを取り除くなど、生活環境を整えることで改善することもあります。早期治療につなげるためには、パートナーをはじめとした、周りの言葉に耳を傾けることも大切。何かいつもと違う、などの変化を感じたら、先送りせずに専門家に相談してみてください。

家庭での産後うつ対処法・予防法

“無気力”は、“怠け”ではありません

産後うつの症状のひとつである「無気力感(家事・育児にやる気が出ない)」は、決して母親の怠け心が原因ではありません。ホルモンバランスの乱れなどによって、こころとからだがSOSサインを出しているのです。

休息の時間をつくる

出産後に悲しい・苦しい感情や無気力感を感じたら、できるだけすぐに休息をとるようにしましょう。 家事・育児は自分ですべてやろうと思わないようにし、パートナーや家族、または地域でサポートしてもらえるファミリーサポートやベビーシッターなどに頼り、支えてもらいましょう。 気分転換に散歩や外出をしてみたり、ゆっくりお風呂に入る時間を取ってリラックスしたりするのも効果的です。

その後育児サポートを利用して、夫の出張中宿泊施設を利用したり、子育てヘルパーさんに来てもらうなどの漫画イラスト

家族が産後うつを発症したら

産後うつの発症は、本人の特性だけが原因ではありません。こころの不調も、からだの病気と変わらないという理解と受け入れが必要です。また、この病気は本人の健康だけでなく、母子関係・夫婦関係などにも影響があります。 産後うつは家族からの理解と支援が重要です。もし、産後うつについてケアの方法などに困ったときは、ご家族の方でもかかりつけ医、または地域の保健師さんや助産師さんにぜひ相談してみてください。自分たちに合ったケアの方法を一緒に考えてくれることでしょう。


産後のママや家族を支える取り組み

出産に伴う経済的支援

出産後は、出産手当金 出産育児一時金などの給付を受けることができます。高額な出産費は家計を圧迫してしまいますが、これらの給付金によって経済的負担をやわらげることができます。

産後ケア事業

各市区町村が取り組む産後ケア事業では、支援を必要とするすべてのママと赤ちゃんに対して、心身のケアや育児のサポートを行うなど、産後も安心して子育てができる支援体制の確保が行われています。 実施方法はお住まいの地域により異なりますが、大きく以下の3パターンがあります。

宿泊型

  • 病院や診療所に産婦さん・新生児を宿泊させ、ケアを行う
  • 最長7日。分割利用も可能

  • ※利用料金は市区町村や各施設により異なるため、お住まいの市区町村にお問い合わせください。

居宅訪問(アウトリーチ)型

  • 事前日程調整をし、産婦さんの自宅に支援者(助産師等の看護職や、利用者の相談内容によっては、保育士、管理栄養士、心理に関して知識のある者)が訪問し、ケアを行う。

  • ※利用料金は市区町村や各施設により異なるため、お住まいの市区町村にお問い合わせください。

通所(デイサービス)型(個別・集団)

  • 保健センターなどに産婦さんが通所し、支援者がケアを行う。
  • 個別と集団がある。
    個別の場合
    病院、診療所、助産所で居宅訪問に記載のケアの内容の全部もしくは一部を受ける。
    集団の場合
    複数の利用者に対して、助産師等の看護職等が保健指導、育児指導等を行う。複数の利用者がいることで、様々な情報を得ることができる。

    ※個別でも目的に応じてはグループワークを組み合わせて実施したり、集団でも個別相談を受けることができるなど、組み合わせは可能。
    ※利用料金は市区町村や各施設により異なるため、お住まいの市区町村にお問い合わせください。

その他の支援

ファミリー・サポート・センター事業

ファミリー・サポート・センター事業(通称:ファミサポ)は、各市区町村で実施されている育児サポートが受けられるサービスです。産後に休息を必要としている方など、子育て世代にとって、ファミリーサポートセンターの取り組みは育児を助けてくれる選択肢のひとつ。育児の負担が少しでも軽くなるように、上手にファミサポを活用してみましょう。


まとめ

妊娠・出産・育児への不安は、誰にでもあります。もしも産後うつになってしまったとしても、それは不思議なことではありません。苦しい気持ちをひとりで抱え込むことは、さらに自分を追い詰めてしまいます。
産後に自分のこころとからだに異変を感じても、最初はそれを認めることに勇気がいるかもしれません。しかし、その勇気は、ご家族とママ自身が明るく幸せに過ごすための第一歩。早めに身近な人や病院等へ相談し、元気になる方法を一緒に考えていってくださいね。

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保健師・シホさん
保健師・シホ
10年以上にわたり自治体保健師として感染症や母子保健などの業務に従事し、多くの住民に寄り添い支援を行う。他にも、病院看護師としての臨床経験や学校保健師としての業務経験など、幅広く公衆衛生に従事する経験を持つ。現在、一人娘を育てながら、ICTを使ってより多くの人々の健康支援に寄与できるよう、育児コラムの編集・監修などにも活動を広げている。趣味は映画鑑賞。
ずんこさん
ずんこ
タイ在住の日本人漫画家、イラストレーター。 日本でマンガ家アシスタントなどを経験後、シンガポールのローカルアートスクールにてマンガの描き方を教える。現在はタイ・バンコクを拠点にマンガ・イラストの制作をしている。他にも、シンガポールやベトナムのイベントに、マンガ風似顔絵ブースで参加をするなど、マンガを通してさまざまな人達と交流していきたいと活動を広げている。
参考文献
北九州市いのちとこころの情報サイト「産後のこころについて ~産後うつ病の予防~」
https://www.ktq-kokoro.jp/lecture/1650(最終閲覧:2025/03/06)
日本小児科学会成育基本法推進委員会報告「男性の産後うつと育児休業に関するアンケート調査」
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20230309_seiikukihonhou_houkoku.pdf(最終閲覧:2025/03/06)
こども家庭庁「こども未来戦略方針」
https://www.cfa.go.jp/resources/kodomo-mirai/(最終閲覧:2025/03/06)

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